ツボカビの野外拡散を防ぐには
高良淳司 沖縄県獣医師会 野生動物保護対策委員会


 日頃フィールドワークをされている研究者の方々は,沖縄の両生類の重要性は改めて言うまでもなく認識されていることと思われる.カエルツボカビの日本への侵入が確認されて約半年になろうとしているが,沖縄においても数件のツボカビ感染外国産カエルが確認された.カエルツボカビは感染力,致死率ともに高く世界中で監視の続けられている危険な病原体である.このような病原体を,多種多様の貴重な在来種が生息する南西諸島の野外へ,絶対拡散させてはならない.そのために,早急に野外拡散阻止対策を立てる必要がある.
 しかしながら,目に見えない生物を対象とすること,水で拡散することなど,今,沖縄で問題となっているマングースなどの生物に対する対応とは異なるポイントをおさえた対策が必要とされる.
 対策を立てるための,カエルツボカビの病原体としての特徴は,土壌中や水中で生き続ける,各種の薬品に感受性があり(消毒法がある),高温や乾燥に弱い,といった点があげられる.基本的には生命力の強い生物ではなく,一般家庭でも入手が簡単な薬品,たとえば70%エタノールや塩素系漂白剤,加えてオスバン,ビルコンSといったものが有効で,その効果を発揮するための作用時間も数十秒と大変短い.また,乾燥には弱く,数時間の乾燥環境下で不活化するとされている.しかしながら,感受性のある両生類では,100個遊走子の暴露で感染が成立し,死に至るほどの病原体であるため,不用意あるいは不完全な対応は,かえって,感染を広げてしまう恐れがある.これらの点に留意することで,我々自身の活動や使用する器具・機材などによって汚染地域を拡げることのないように工夫していく必要がある.
 このたび,沖縄県獣医師会で相談窓口を設置するに当たって,いろいろな状況においても利用可能な防疫プロトコルを示すことが求められている.「爬虫類と両生類の臨床と病理のための研究会」,「カエル探偵団」などから出されているツボカビ対策資料や,発表されている論文などを基にガイドラインを作成していく予定である.ここでは,フィールドで活動する際に実施すべき対策法を示し,今後,さらに有効かつ実務的な対策の考案に役立てたい.この中ではフィールドで移動する必要がある場合,何に気を付けてどういう手順で消毒処置をするのか.どういった薬剤が使い易く,どのような道具を選択するべきかといったことをビデオ映像を使って示す. この先,各河川での汚染状況などが明らかになり,さらにツボカビの生態が正確に把握されることで対策が簡略化されていくことも期待されるが,現在のところ,ここで紹介した対策をもって立ち向かう他ない,危険な病原体の国内侵入を許してしまったと言えよう.
参考資料 http://www.azabu-u.ac.jp/wnew/detail07/070111.html